
歯科医の仕事というのは、なにも院内で行われるわけではありません。高齢化社会が進む日本では、訪問医療の役割が重要とされ、歯科分野においても例外ではありません。口の働きは、食べ物が入る入り口であり、とても大切なものです。しかも、食べ物が入る入り口ということは、いつも栄養が豊富にある状態とも言えます。
そして口の中には多くの微生物が存在していることが分かっています。唾液によって湿った環境にあり、温かく一定の温度に保たれている口内環境は、微生物にとってとても済みやすい空間なのです。口の中にいる微生物は、健康な人であれば善玉菌がほとんどだと言われています。しかし、口内環境が悪くなることで、一気に悪玉菌が増殖します。
これらが体に与える影響は少なくなく、特に免疫力の下がっている高齢者にとっては、深刻な病気を引き起こすきっかけにもなるのです。そこで、介護が必要な人が自宅でも口内ケアを行うために、訪問による口腔ケアが注目されているのです。最近では歯科医の中にも、こうした訪問ケアに力を入れている医師が増えてきているのです。歯科分野と医療分野が上手く融合することで、健康的に長生きすることが出来るとも言われているのです。
口内の環境が悪化することで、身体に深刻な影響を与える可能性がある最も代表的な病気は、高齢者によく見られる肺炎です。肺炎は、高齢者の死因上位にランクインする病気ですが、これが口内環境と大きく関係があることが分かってきました。介護が必要な高齢者にとって、口の中を隅々まできれいに保つということは非常に難しいことです。自分の目で確認することが出来ないため、身体の他の部分よりも汚れていることに気づきにくい場所であるからです。
肺炎の原因として考えられることの一つに、口やのどの中にいる細菌があげられます。口腔ケアが不十分で、悪玉菌のような細菌が増殖することで、その細菌が気管支を通り肺までたどり着いてしまう可能性があるのです。高齢者は入れ歯などを使用している人の割合も多く、雑菌が繁殖しやすい条件でもあります。また、入れ歯や自分の歯が混在しているような口内環境だと、それぞれのケアが必要となり、より衛生状態を保つことが難しいと言われています。
虫歯がなくても、訪問歯科医に、定期的に口腔内の環境を確認してもらうことで、異常があれば早めに手を打つことが可能です。そして、それが体を健康に保つ重要な役割にもなるのです。訪問歯科医が行う高齢者への口腔ケアは、肺炎の原因となる誤嚥を防ぐことにもつながります。誤嚥とは、飲み込むときに食道ではなく気管支に入ってしまったり、むせ返ったりすることを指します。
口腔ケアと誤嚥の関係ですが、唾液の分泌が大きく関わっています。口の中には絶えず唾液が分泌されており、これは口の中を清潔に保つための自浄作用となっています。高齢になると、身体機能の低下により唾液の分泌が悪くなります。すると口の中が乾燥しやすくなり、自浄作用が低下してしまいます。
そのために高齢者は、口腔内に雑菌が繁殖しやすくなってしまうのです。また唾液の量が減少することで、食べたものが飲み込みにくいといったことも起こります。高齢者の食事にとろみが付けてあるものが多いのは、こうした唾液の分泌の低下があるからです。飲み込みづらいということは、誤嚥の可能性も高くなります。
誤嚥した場合、気管支に入ってしまった食べ物を排出しようとむせ返ることになります。この行為は気管支の炎症を招き、ひどい場合は肺にまで炎症が広がることもあるのです。訪問歯科医による口腔ケアは、口内環境を整えたり、唾液の分泌を促すトレーニングなどを行う場合もあります。高齢者の自宅を訪問して、歯科医が口腔ケアを行うことは様々なメリットがあります。
年齢とともに減少した唾液の分泌は、歯科医による口腔ケアで口の中を清潔にすることで、分泌が活発になるということが知られています。介護の必要がある人は、歯ブラシで上手く口の中をマッサージすることが難しいでしょう。しかし歯科医によって、歯ブラシなどで唾液腺を刺激することで、働きが再度盛んになり、唾液の分泌量を増やすことが出来ます。唾液は、口の中の粘膜を保護したり、雑菌の繁殖を抑制したりする働きがあるため、こうした歯ブラシによる唾液腺のマッサージは、口腔ケアの基本となるのです。
口腔ケアを行い、口の中の環境を整えることは、病気の予防にもつながります。口内細菌の中には、黄色ブドウ球菌がいます。この菌は表皮感染症や食中毒を引き起こす可能性があります。また、肺炎桿菌は、呼吸器感染症を引き起こす可能性があります。
こういった菌が、口内に繁殖することで、感染症や肺炎にかかりやすくなってしまうのです。口腔ケアは、健康に直結しているとても重要な病気の予防効果が高いのです。半年に一度、一年に一度といった長いスパンではなく、在宅口腔ケアは日常的に行うべきケアの一つです。介護が必要で、あまり外出することが出来なくなると、口の中のケアを怠りがちになります。
食べ物に対する欲求も減り、あまり食に対して関心を持たなくなる人もいます。ところが、食べるという行為と認知症の関係は、実のところ深いと言われているのです。口を開けて食べ物を噛み、飲み込むという行為は、脳に対して酸素を送り、刺激を与える効果があります。そうした食べる行為によって、中枢神経は活性化し、認知症を予防することが出来ると言われているのです。
年齢によって自分の歯を失ってしまっても、入れ歯のケアをきちんと行っていれば、自分の口で食べ物を食べることが可能となります。歯科医院に通うことが難しくても、歯科医師に訪問してもらえるサービスを利用する事で、いつまでも食べる喜びを楽しむことが出来るのです。こうした口腔ケアをきちんと行うことは、食べることだけでなく、呼吸をする、会話をするといった口腔機能すべてにおいてよい影響を与えます。口腔機能の低下は、食事が出来なくなることによる栄養失調や摂食障害だけでなく、免疫力が低下し、健康な生活が送れなくなることもあるのです。
質の良い生活や健康な体を目指すのであれば、生涯にわたって口腔ケアすることが重要と言えるのです。高齢者が、在宅で歯科医療を受けるにはどのようにすればいいのでしょうか。家族などのかかりつけ歯科医が、訪問医療を行っている場合は、依頼できるかどうか聞いてみてもいいでしょう。もし、そういった在宅歯科医療について知る人がいないのであれば、介護にかかわっているケアマネージャーに聞いてみることがおすすめです。
ケアマネージャーであれば、今後の歯科診療についても審査を行い、治療やケアのスケジュールを立てることも可能です。脳卒中などが原因で、口の動きが上手くいかなくなることもあります。その場合は、在宅でリハビリを行うことになりますが、口腔リハビリも機能向上の手段となります。そのため、退院する際に病院の看護師や地域医療連携室のスタッフに、今後のことについて相談してみるといいでしょう。
高齢になると、歯科と医科を区別して治療するのではなく、双方が連携し合って治療を続けていくことは大切になります。そのためにも、かかりつけ医を決め、在宅で受けることが出来る治療法について、歯科と医科の両方からアドバイスを聞き、治療やケアの計画を立てていくことが望ましいと言えるでしょう。長生きするだけでなく、少しでも健康に長生きできるよう、周りがサポートしていくことが重要なのです。
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